◇企画会議に楽員も参加 寝食忘れて働いた1年−−札幌交響楽団チェロ奏者・荒木均さん
札幌交響楽団のチェロ奏者、荒木均さん(38)が「文化としての札響−−改革論議の向こうに」と題して寄稿した。
札響労使は4月19日、今年度から本給7%削減、退職金25%削減で合意した。「再建元年」だった昨年度の賞与カット(平均50万円)と合わせると、楽員の平均年収(一昨年約570万円)は500万円を大きく割り込むこととなり、文字通り苦渋の選択だった。
札響の赤字はここ10年来、累々と積み上がっていたのだが、一昨年の新聞報道によって、やっと公の知るところとなった。この報道が引き金となって、監督官庁の道教委は「(借入金に依存しない)収支均衡予算」を助成金継続の条件とした。
「長年さしたる指導もなかったのに」と恨み節の一つも言いたくなった。だが、これら“外圧”のお陰で、理事長と専務理事を代々出している北海道新聞社が札響再建に乗り出した。形骸化していた理事会も真剣に論議を始めた。
理事会からユニオン(労働組合)に示された収支均衡案は、一方的な人件費削減に依存するものではなく、あまりにも非力だった事務局の刷新や数々の増収策を含んでいた。このため、ユニオンとしても受け入れることを決め「労使協調」による再建が始まった。
その初年度に当たる昨年、札響は全国のオーケストラが驚くほどの改革と経営改善を実現した。
本来のオーケストラ業務のほか、小編成のアンサンブルで学校や福祉施設、スポンサー企業の式典などで演奏。楽員参加による「企画会議」を編成し、楽員のアイデアが企画・経営に反映される仕組みが整えられた。ワークショップ形式の音楽教室の実施も特筆に値すると思う。
新しい聴衆の開拓も始まった。ポップスオーケストラやブラスアンサンブル、ロビーや街頭コンサート……。個々の楽員がマスコミに出演することにより、聴衆との距離は確実に縮まったのではないか。
団員一同、寝食を忘れて働いた1年だったと思う。維持・定期会員も倍増し、公演回数も激増した。「札響の社会的な必要性」を認めて寄付してくれた人々も大勢いた。大いに励まされた。マスコミ報道の宣伝効果もこの現象に拍車をかけたと思う。こうした動きの中で楽団は苦しいながらも求心力を増していった。
◇ ◇
3週にわたって掲載します。次回は6月2日。
………………………………………………………………………………………………………
◇札幌交響楽団
1961年、札幌市民交響楽団として発足。翌年「財団法人札幌交響楽団」となった。定期演奏会や名曲シリーズのほか海外でも公演。黒沢明監督の映画「乱」のサウンドトラック収録を担当し、大きな反響を呼んだ。常任指揮者だった尾高忠明氏が5月に音楽監督に就任した。
………………………………………………………………………………………………………
■人物略歴
◇あらき・ひとし
札幌市出身。獨協大を経て東京芸大別科修了。93年入団。労働組合札響ユニオンの書記長も務めている。趣味はパソコン。ホームページはhttp://arakipage.jp
毎日新聞 2004年5月26日